(2022.7.19更新)
「社会的養護」の科目における運営指針・養育指針の出題をまとめていています。
今回は、平成31年前期に出題された「情緒障害児短期治療施設運営指針」の問題をみていきます。 

「情緒障害児短期治療施設運営指針」

まず、情緒障害児短期治療施設とは、児童の情緒発達のための環境整備とメンタルケアを目的として、1961年に法制化された児童福祉施設です。
平成28年の「児童福祉法」改正(平成29年4月施行)により児童心理治療施設と名称が変わりました。
施設の名称が変わったことで施設の定義も変わりましたので、「児童福祉法」の改正前後の条文を比べてみます。

改正前の条文
情緒障害児短期治療施設は、軽度の情緒障害を有する児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、その情緒障害を治し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。

改正後の条文
児童心理治療施設は、家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となつた児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、社会生活に適応するために必要な心理に関する治療及び生活指導を主として行い、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。

改正前と比べて、施設の目的が明確化されていますね。
この条文は令和元年後期試験「社会的養護」問4にも出題されています。

この情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)の運営指針が「情緒障害児短期治療施設運営指針」です。
運営指針の構成は以下となり、他の施設の運営指針の構成とほとんど同じです。
ただ、第I部総論「5 治療・支援のあり方の基本」、第II部各論「1 治療・支援」とありますように、「治療」という部分が他の指針にはない部分です。
「5 治療・支援のあり方の基本」をもとに、「1 治療・支援」で具体的な方法が述べられています。

保育士試験において、「情緒障害児短期治療施設運営指針」は、ここが特に出題されやすいと考えられます。
実際に平成30年前期に出題されたのは、第I部総論「5 治療・支援のあり方の基本」からでした。

I総論

目的

社会的養護の基本理念と原理

情緒障害児短期治療施設の役割と理念

対象児童

治療・支援のあり方の基本

情緒障害児短期治療施設の将来像



 
II各論

1 治療・支援

家族への支援

自立支援計画・記録

権利擁護

事故防止と安全対策

関係機関連携・地域支援

職員の資質向上

施設の運営


では「情緒障害児短期治療施設運営指針」が出題された問題を確認します。




過去問分析
平成31年前期は、治療目標について正しい記述を選ぶ問題でした。
A 子どもへの治療は、経験主義的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。
B 治療目標は子どもの状況に応じて子ども、保護者及び児童相談所等の関係者と相談しながら決めていく。
C 治療は、子どもの同意のみならず、保護者を治療協力者ととらえ、保護者に児童の状態及び能力を説明し治療方針の同意を得ながら進めていく。
D 心理療法は個人療法、集団療法など様々な技法から保護者の意向に合わせて組み合わされるほか、心理教育や性教育プログラムなど特別なプログラムも必要に応じて行われる。

(組み合わせ)
1 A B
2 A C
3 A D
4 B C
5 B D

この問題は、「情緒障害児短期治療施設運営指針」の「5 治療・支援のあり方の基本」(6〜11ページ)のうち、(1)基本的な考え方 ③治療目標(7ページ)から出題されています。

A ×
「経験主義的アセスメント」ではなく、正しくは「医学的、心理学的、社会学的アセスメント」です。
運営指針では「・子どもへの治療は、医学的、心理学的、社会学的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。」としています。
アセスメントとは援助活動を行う前の評価で、子どもが求めていることを知ったり、問題解決を見つけたりするために行われるものです。
経験的事実を基準とした経験主義ではなく、医学的、心理学的、社会学的というさまざまな観点から、このアセスメントを行うことになります。

B◯
運営指針に全く同じ文章があります。

C◯
運営指針に全く同じ文章があります。


「保護者の意向にあわせて」ではなく、正しくは「治療目標に合わせて」です。
運営指針では「・心理療法は個人療法、集団療法など様々な技法から治療目標に合わせて組み合わされるほか、心理教育や性教育プログラムなど特別なプログラムも必要に応じて行われる。」としています。
B、Cにありますように、治療は本人や保護者などと相談して決め、本人と保護者の同意を得て治療を始めますが、保護者の意向にあわせて行うものではありません。


学習ポイント
7種類の指針のうち「情緒障害児短期治療施設運営指針」のみが「治療」について述べているので、もしこの運営指針の出題があれば、第I部総論「5 治療・支援のあり方の基本」や第II部各論「1 治療・支援」の部分が出題されやすいと考えられます。
この運営指針をまだ読んだことがない、どこを学習すればいいか?と迷ったら、まずこの部分から読まれることをおすすめします。

次回は「母子生活支援施設運営指針」を見ていきます。