(2023.1.15更新)
今回より令和2年後期試験「社会福祉」の問題を一つ一つ解説していきます。
今回は問1の「社会福祉の基本理念」です。


問1 社会福祉の基本理念
 
 次の文のうち、社会福祉の基本理念に関する記述として、適切な記述を○、不適切な記述を× とした場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

A 北欧に起源をもつノーマライゼーション(normalization)の思想は、日本の社会福祉分野の共通基礎理念として位置付けられることが多い。

B ユニバーサルデザイン(universal design)という考え方の一つに、どのような人にとっても役立つように使えるということが挙げられている。

C QOL(Quality of Life)という言葉が社会福祉分野で使われるようになったのは、日本では、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」が制定されてからのことである。

D ソーシャルインクルージョン(social inclusion)とは、カナダ及びオーストラリア地域で普及してきた理念であり、「社会的包括」あるいは「社会的包摂」等と訳されることがある。

(組み合わせ)
   A B C D
1 ○ ○ × ○
2 ○ ○ × ×
3 ○ × ○ ○
4 × ○ ○ ○
5 × × ○ ×

ノーマライゼーション、ユニバーサルデザイン、QOL、ソーシャルインクルージョンという言葉を正しく理解していたかが問われました。
この問題は平成29年後期試験の問2とほぼ同じ内容で、選択肢の◯×の並びも同じでした。
問題を見て「見覚えがある!」と思われた方もいらっしゃったのではないかと思います。

答えは2ですね。

まずは解答テクニックからです。
A 北欧Dカナダ及びオーストラリア地域というように、どちらにも地域名(国名)が含まれています。
このように共通点があるものはどちらかに誤りを設けている傾向があります。
どちらかが◯でどちらかが×とすると、選択肢を2か4で考えることができます。
全くわからない問題に対しては、このように共通点を疑うこともテクニックの一つです。


設問を一つずつ見ていきます。
 
A 北欧に起源をもつノーマライゼーション(normalization)の思想は、日本の社会福祉分野の共通基礎理念として位置付けられることが多い。

→◯
ノーマライゼーションは前回の令和元年後期試験にも出題があり、非常によく出ている印象がありますね。
ノーマライゼーションとは、障害がある人などを隔離するのではなく、健常者と一緒に助け合って生活していきましょうということで、共生社会とほとんど同じような意味合いです。

ノーマライゼーションの理念を提唱したのはデンマークのバンク=ミケルセンで、この理念を広めたのが、スウェーデンのベンクト•ニリエです。
問題文にあるように「北欧」諸国に広まり、日本においてもこの理念のもと、障害者の自己決定を尊重する仕組みがとられています。
解く際は、デンマークやスウェーデンを思い出し、なんとか「北欧」とつなげたい問題でした。


B ユニバーサルデザイン(universal design)という考え方の一つに、どのような人にとっても役立つように使えるということが挙げられている。

→◯
ユニバーサルデザインとは全ての人が使いやすいデザインです。
例えば、シャンプーとリンスの容器の違い(横のギザギザ)、段差がなく車体が低くて乗り降りしやすいノンステップバス、誰でも利用でき、特に子ども連れや介助が必要な方などに配慮された多機能トイレなどがあります。


C QOL(Quality of Life)という言葉が社会福祉分野で使われるようになったのは、日本では、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」が制定されてからのことである。

→×
平成29年後期試験の問2解説にも書いていますように、まず「障害者総合支援法」は2012年に改題された比較的新しい法律です。
QOLという言葉は2012年より前から使われていたことは想像できるのではないでしょうか。
また、QOLの概念等をまとめた論文によりますと、「QOL(生活の質)」という言葉は1970年代に使われはじめ、社会福祉の領域では1980年代から事典でも見られるようになったと述べられています。


D ソーシャルインクルージョン(social inclusion)とは、カナダ及びオーストラリア地域で普及してきた理念であり、「社会的包括」あるいは「社会的包摂」等と訳されることがある。

→×
カナダ及びオーストラリア地域で普及してきたという部分が誤りで、正しくはヨーロッパ(欧州)地域です。
ヨーロッパでは移民の増加等を理由として「社会的排除」という状態が問題となっており、それに対して「社会的包摂」という理念が提唱されるようになりました。
障害者、高齢者、子ども、移民など、社会的に弱い立場の人たちを排除することなく、みんなが社会に参加していきましょうということです。


ノーマライゼーションは完璧に準備する

ノーマライゼーションは「社会福祉」に繰り返し出題されている言葉で、このブログでもいくつかピックアップして解説をしてきました。

平成26年の問2
平成28年前期の問14
平成29年前期の問2
神奈川県平成31年の問1
令和元年後期の問1

これらを復習するとノーマライゼーションに関する知識が身につきますね。

次は問2の「日本の社会福祉の動向」の解説です。