(2023.1.19更新)
令和2年後期試験「社会福祉」の解説をしています。
今回は問14の「事例」です。
平成27年頃までは「社会福祉」に事例問題が出題されていましたが、しばらく出題がありませんでした。
令和元年後期試験の問12に久しぶりに事例問題が出題され、今回も続いて出されました。


問14 事例
 
次の【事例】を読んで、【設問】に答えなさい。

【事例】
F児童家庭支援センターに子を連れて母親が来所した。その母親Hさん(30 歳)は、発達障害と診断されたGちゃん(3歳)の養育と自分の仕事との両立に悩んでいた。父親は仕事のため同行することができなかった。この来所相談に応じたのは相談員Jだった。

【設問】 次の文のうち、相談員Jによる初回面接時の対応として、適切な記述を○、不適切な記述を×とした場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

A 相談員Jは、Gちゃんの養育と仕事の両立に悩んでいるという主訴に対して、Gちゃんの養育を優先させることの大切さを主張した。
B 相談員Jは、主訴がすぐに表明されたので、女性の社会進出の権利を前提に話した後、発達障害児が利用できる制度を紹介して、ぜひ仕事を続けるように主張した。
C 相談員Jは、主訴を聞いた後で、Gちゃんの発達の遅れを診断するために母子をプレイルームに案内して、Gちゃんの遊ぶ様子を観察しながら、Gちゃんの生育歴を丁寧に質問した。
D 相談員Jは、主訴を聞いた後で、母親Hさんの心情について表出を促し、その後、家族関係の状況を質問した。

(組み合わせ)
   A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ × ○ ○
3 × ○ ○ ○
4 × ○ × ×
5 × × × ○

この問題は平成27年地域限定「社会福祉」問10と同じものです。
一部表記は異なりましたが、内容や◯×の組み合わせも同じですので、見覚えがある方もいらっしゃったと思いますね。
この問題(=平成27年地域限定試験の問10)については、ブログ内の、「事例」過去問紹介障害者福祉(平成27年地域限定)で簡単に解説しておりますが、改めて一つずつ確認していきます。

問題の答えは5です。

事例問題はある程度常識や感覚で答えられるものが多いとは思いますが、今回は「バイステックの7原則」にそって見ていきたいと思います。

バイステックの7原則
(対人援助における、援助者に求められる7つの行動規範)
1.個別化(利用者の生活問題の個別性を理解する)
2.意図的な感情表出(利用者の自由な感情表出を促すよう意図的にかかわる)
3.統制された情緒的関与(援助者自身の感情を自覚的にコントロールして利用者に反応する)
4.受容(利用者の「あるがまま」を受け入れる)
5.非審判的態度(援助者の価値観によって利用者を一方的に非難しない)
6.自己決定(利用者の自己決定を尊重する)
7.秘密保持(利用者に関する情報を不必要に漏らさない)



A 相談員Jは、Gちゃんの養育と仕事の両立に悩んでいるという主訴に対して、Gちゃんの養育を優先させることの大切さを主張した。

→ ×
相談員Jが主張した「養育を優先させること」は相談員自身の価値観です。
バイステックの7原則のうち「受容」や「自己決定」に反していると言えるため×となります。
相談に対する姿勢としては、受容的な対応や意向を尊重することが大切です。


B 相談員Jは、主訴がすぐに表明されたので、女性の社会進出の権利を前提に話した後、発達障害児が利用できる制度を紹介して、ぜひ仕事を続けるように主張した。

→ ×
A同様に「主張した。」という言い回しがあり、こちらも相談員自身の価値観を主張しています。
バイステックの7原則のうち、「受容」や「自己決定」に反していると言えるため×となります。


C 相談員Jは、主訴を聞いた後で、Gちゃんの発達の遅れを診断するために母子をプレイルームに案内して、Gちゃんの遊ぶ様子を観察しながら、Gちゃんの生育歴を丁寧に質問した。

→×
相談員Jに発達の遅れを診断する役割があるかという視点で考えると、児童家庭支援センターは発達診断を行うところではないため×です。
発達診断は病院など医療機関で医師が行います。

児童家庭支援センターは「児童福祉法」に定められた児童福祉施設の一つですね。
また、目的、事業内容、職員配置、設備など細かいことは児童家庭支援センター設置運営要綱(令和3年6月改正)に定められています。


D 相談員Jは、主訴を聞いた後で、母親Hさんの心情について表出を促し、その後、家族関係の状況を質問した。

→◯
これは、バイステックの7原則のうちの「意図的な感情表出」の原則にもとづいた態度で相談を受けていますので◯ですね。
「母親Hさんの心情について表出を促し」とは、母親Hさんの胸のうちを明かすことを促すというような意味です。
母親Hさんが安心して話すことができるように、「感情を自由に表現して大丈夫ですよ」というような雰囲気で対応することが重要となります。

感情を表出させるメリットとしては、例えば否定的な感情を表に出すことによって問題の重要な部分を見つけることができたり、母親自身も客観的に物事を見ることができたりします。


次は問15の「児童の権利擁護」の問題解説です。